はじめに
ハラの森の周囲にひっそりとあって意識を惹かなった存在、その一つがハラの森にある椿です。今回は椿のことについて考えてみます。多くの日本人にとっては、身近な木でありそうです。ハラの森・管理人である筆者は、感心薄くこれまで椿と接してきましたが、現在花を咲かせていることもあり、調べてみることにしました。
椿の思い出
ハラの森・管理人である筆者が子供の時分から椿が庭に在ったこともあり、椿(つばき)の名称は聞いていて見知っていました。特に惹かれることもなく、光沢のある葉と白やピンク色の花をつける木、といったことぐらいの印象しかありませんでした。
この文章を書く時点までそんな感じでした。
考えてみると・・・なぜかしらん
この度ハラの森を見回してみて、季節柄冬ですから、多くの草木は葉を落とし、枯れていてベージュと言うか、カーキといった色調です。そんな中で常緑広葉樹である椿は、濃い緑の葉を茂らせて花を咲かせています。北側にあって日当たり良好でない場所にあっても、花をたくさん付けているその姿に気がつくと、寒がりの筆者は、「おぉ!寒い時候に花をつけるとは、やるなぁ」と感心するほどです。
でも、なぜ冬に花を咲かせるのでしょうか?
花を咲かせるのは実を結ぶため、という文言は、植物が花を咲かせる事象を話題とする際によく聞くことです。つまり種をつくるため。花を咲かせ、虫や鳥に来てもらい受粉をして、実をつける準備をするということ。しかし、冬には虫はあまりいません。ハラの森にたくさんいたアシナガバチも昨年2023年12月の初めの温かい日には、一匹弱々しく生き続けていましたが、年明けての寒さではさすがにダウンしてしまったようです。読者の方も次のような憶えがありませんか? 冬の日に洗濯物を取り込むとハエが衣類の中に隠れていて、取り込まれた部屋が温かくて、元気度を増して飛び回ったりするってこと。冬の外気温では昆虫たちは寒くて活動能力が低下しています。冬に咲く花の周囲に虫が多く見られることは、ほとんど見かけません。というわけで、冬に花を咲かせる草木は、昆虫を当てにはできません。
一方、鳥はいます。ハラの森を拠点にしているのではないかと思われるほど、ヒヨドリは活発に飛び回り、食物を渉猟しています。ハラの森にあった柿は彼らの餌となり、先日記事にした柚子は、寒さが厳しくなる1月下旬から温かくなってきても餌が少ない3月ぐらいまで、よく突っつかれています。推測するに、柚子は甘くて好きではないが、食べるものがないからという理由で、鳥たちの餌になっているのでは。ハトも時々訪れに来てます。彼らは歩きながら、地面に落ちている柚子や何やら、地面に見つかるものを突っついています。
草木も種によって様々な生き様があるように、鳥も同様に自らのスタイルがあって他の種と同調することはありません。「みんなちがって、みんないい」なんて言い草は、彼らにとって至極当然で言葉にするほどにも及ばない、という感じではないでしょうか。シジュウカラやメジロなど小型な鳥を見ても、それぞれに独特な動きがあり、好きな餌も様々にあるのでしょう。鳥たちは、他の種の鳥が効率的に生きているからといって、それらに同調することはなさそうです。それぞれの種には、生きていくため固有の生存戦略を選択しているように見えます。
今回話題としている椿との関係では、ヒヨドリが椿に取り付いて椿をつついて花びらをむしり取るようにして嘴に咥えていたりする様子を目にすることがあります。花びらを食べるのかぁ、と思ったりしていました。が、これがどうも、狙いは椿の蜜のようです。
椿の戦略
生物は生存戦略とも言える方法で自らの種を存続させています。その一端を示唆してくれたのがこの本です:稲垣栄洋著 『花は自分をだれともくらべない 47の花が教えてくれたこと』*1。
*1 稲垣栄洋著 『花は自分をだれともくらべない 47の花が教えてくれたこと』 、2020 年、 山と渓谷社
「へ〜っ、そうなんだ!」と感心してしまう箇所が多々ですから、ぜひ購入して読んでいただきたく思いますが、本稿との関係で参照したい示唆は次の点です。
- 椿は春を告げる木
- 椿が求めるのは、虫でなく鳥
● 椿は春を告げる木:著者が椿の漢字について言及するに、立春が過ぎれば春になる、節分で豆撒いて、昨今季節行事的になった恵方巻を食す慣習とする日を越えると暦的に春になります。立春の前から咲いている様子から、春の兆しを古来の日本人は感じ取り、木+春という偏とつくりを合わせて「椿」とした。「なるほどなぁ」、唸ってしまいませんか? ちなみに、榎、楸、柊と木偏のつくり部分に季節名がくる木について稲垣氏は述べています。読めますか? 「楸」という名称について、筆者は初めて知りました。これらの語を辞書で調べるか、氏の本をご一読してみてください
● 椿が求めるのは、虫でなく鳥:著者によると、椿が生存戦略的に狙っているのは、虫でなく鳥だと言います。寒い冬の時季に咲けば、昆虫がたくさんいませんから、鳥は昆虫を餌とできない。だから、花の蜜を求めて飛来してくる環境となるように寒い冬に花を咲かせる、というのです。鳥たちも植物性の食物よりも動物性の食物の方を好むということですかね。つまり椿は、種の存続・繁栄を昆虫ではなく、鳥に依拠しているということです。鳥に頼った方が、行動半径が大きそうだから、種の繁栄の点からすると有利なのかもしれません。この点は一つの興味を惹く箇所でもありますね。
他にも、椿と鳥たちとの相互依存関係は、必ずしも相手方を配慮した関係でなく、あくまでも自己の利益を追求した結果、椿の花の構造も規定されたと、著者は述べます。・・・どんなことでしょう? ぜひ、この本読んでみてほしいと思います。
寒い時候ではありますが、「春はもうすぐそこ」と告げている、春告げの木、それが椿なのですね。ということで今回はこれぐらいで、ごきげんよう。
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