はじめに
過去3回の記事の中で、プラスチック汚染やプラスチックごみのことについて述べてきました。今回は、人間社会はプラスチック問題をどのように解決していこうとしているのか? どのような対策を講じることができるのか考えてみたいと思います。
プラスチックごみへの対策例
先日、プラスチック製品の原料となるプラスチック樹脂の粒子であるナードル nurdlesの流出事故がスリランカのコロンボ沖で発生したことを紹介しました。こうした事故は度々発生していたようで対策がなされています。以下に挙げたのは、ナードルとは何? というYOUTUBEにある映像です*1。これでナードルの概要や、ナードルの海洋流出に関して、海難事故を起こしたとしても、積載方法を流出被害を最小限に抑えるられるように改善に努めていることが読み取れると思います。
*1 Fauna & Flora, What are nurdles? The plastic pellets threatening marine life
ナードル対策ではありませんが、大型のプラスチックごみの海上漂流に関して、筆者が「へーっ」と思った事例では、回収がすでに試みられていて、巨大プラントを海上に浮かべて作業を行っていることです*2。
*2
By Associated Press. Great Pacific garbage patch: giant plastic trap put to sea again.The Guaridian. 2019.
太平洋海上に浮かぶプラごみの回収機は、ハワイとカリフォルニアの間に在ってThe Great Pacific Garbage Patch (GPGP: 太平洋ゴミベルト)と呼ばれる海域で作業をしています。掲載した記事には、装置の一部が写っています。筆者が思ったのは、まき網漁で網を円を描くように敷いていって囲い込む感じをイメージしました。海洋生物に配慮して、ゴミを捕らえる幕は3m の深さであるので、装置に捕らわれても潜って逃れることができるようになっています。その装置は600m の長さに及びます。回収できるプラスチックごみは海面から3m 深さまでですから、使われていない漁業用の網、そしてブイ、バケツのような大型サイズのプラスチックごみをキャッチします。5mm 以下のマイクロプラスチックやナードルは捕らえることまではできませんが、この海域の大型の海洋ごみを回収していて、そうしたゴミの半分近くは、漂流した漁業用の網で、その他はボトルや皿、ブイ、そしてトイレの便座なんていうのもあるそうです*3。大きなプロジェクトを発想と実行力を以て実現させる、アメリカ人らしくて見事であると思います。
*3 By Oliver Milman in New York. ‘Great Pacific garbage patch’ sprawling with far more debris than thought. 2018. The Guardian
他方、人海戦術によるプラスチック除去も行われています。以下の記事では、砂浜に10人ぐらいのボランティアがしゃがんで一列になって、表層の砂を引っ掻いて、ナードルやマイクロプラスチックを回収していきます。底なし的な作業です。その回収作業を行っているボランティアの創設者自身、ナードルやマイクロプラスチックを回収しつくすことは不可能であると認識しています。
それでは徒労ではないか? どうして終わることのない作業を行っているのか? というと、プラスチック税や、ナードルから製造されるプラスチック、リサイクルされた原料でないプラスチック製品ーex) プラスチックのフォークやスプーンーを禁止する法制化の根拠となっているのだといいます*4。つまり、ボランティア組織が行った実績が、プラスチックの社会での氾濫を規制する原動力になっているというのです。市民からの科学的根拠の提示に政治が応える、これぞ正に、民主主義のお手本と言えますね。
*4 By Melissa Hobson in Camber Sands, East Sussex. The nurdle hunters: is combing UK beaches for tiny bits of plastic a waste of time? 2024.The Guardian
プラスチックが充満している地球
先述したThe Great Pacific Garbage Patch (GPGP: 太平洋ゴミベルト)の海洋ゴミの回収は、大規模な事業でありますが、マイクロプラスチックの回収には着手できてはいません。参照している記事は約6年前の事態を紹介していますが、マイクロプラスチックの1.8t (トン)もの量がこの海域に浮遊しているそうです。そして、約800万t のプラスチックごみが毎年海洋にたどり着きます。このごみは、砂浜や海洋を漂流し、数百年以上をかけてマイクロプラスチックになっていきます。以前の記事でも述べましたが、マイクロプラスチックは微生物や病原菌の運び屋の役割も果たします。そうしたマイクロプラスチックは、小魚が食物として思って摂取してしまいます。そして、食物連鎖の結果、最終捕食者の人間の体内に取り込まれることになります。 そして何と、2050年までには海洋のプラスチックごみの量が、魚のそれを超越してしまうと予想されています*3。
*3 ibid. By Oliver Milman in New York
当然のこと、マイクロプラスチック、さらに微細化されたナノプラスチック(マイクロプラスチックの1/1000の単位)は、日常的に人体に入り込んでいます。ペットボトルのミネラルウォーターにも250,000ナノプラスチックの量が含まれているということなので仕様がありません。人間は、クレジットカードぐらいの量のマイクロプラスチックを毎週吸い込んでしまっているとのデータがあるそうです*5。まだプラスチックが体内に摂取されることで、どのような影響が現れるのかは判明していないようですが、自ら出したプラごみが巡り巡って、人体に行き着くという事実からは逃れられない事態を人間は創り出してしまったのです。
*5 By Isabelle Gerretsen. Microplastics are everywhere: Is it possible to reduce our exposure? 2024. BBC
この事実を知ったなら、あなたはどのように行動しますか?
国連や政府での対策が講じられてはいます。一方、各個人レベルでは、問題が大きいのでどこから手をつけてよいのか戸惑ってしまう感もありますが、実態を認識し、自らの生活の中でできることを行っていくことは必要でしょう。結局のところ各人一人ひとりの行い次第というところに行き着きます。読者の方は処方箋は知っているはずです。幼稚園の時分に教わったことです。
それは、外出した時にはごみを持ち帰り、自分の住まう地区のごみ収集日に出す。これを確実に行うことができれば、事情は大きく変化するのでは、と筆者は考えますが、浅い考えでしょうか? そしてまた、物品を購入するときには、ごみにしたときのことまで視野に入れて消費行動を行うことです。処分できない時、ごみ処理が面倒くさいときは購入しない、といったことです。ごみ処理場でプラスチックを処分する際に、粉塵的に大気中に放出されてしまうマイクロプラスチックは出てしまうことはあるでしょうが、川岸や海岸に集積したペットボトルやレジ袋等々のプラごみがマイクロプラスチックの根源です。あれらはポイ捨てした結果ではないですか? プラスチックの登場で、スーパーマーケットやコンビニでの買い物が大いに楽に便利になりました。便利になった分、文明を享受できるようになった分、プラスチックを管理する、確実にゴミ処理場に届くようにごみ出しをする、これはMUSTのことです。プラスチックごみは人体に毒になる可能性もありますし、すでに自然界の生物を殺してしまっています。
幼稚園の時に教わったこと
「自分で出したごみを持ち帰る」。幼稚園や小学生の遠足の際に、頻繁に聞いたことを思い出します。持ち帰ったごみをプラごみ収集の日に出す、この基本こそが、地球環境の改善に大きく変化をもたらす一歩の始まりでしょう。この基本を踏まえない限り、プラスチック包装の行き過ぎを考えたり、リサイクルやリユースといった活動をしても、効果が減じられてしまうのは明らかです。
そして、プラスチック容器との接点を減らしていくことも必要となるでしょう。弁当文化が強い日本では、プラスチック容器に入った諸々の弁当がありますが、レストランで陶器の皿やカップで食事をするよう習慣を改めていくこと、プラ容器に入った惣菜なども再検討となるかもしれません。これって便利を追求して、プラ容器で安直に食事してきた結果でもあります。手間がかかる生活にシフトすることが求められているのかもしれません。面倒くさいと思えるかもしれませんが、文化的に豊かになれるチャンスかもしれません。ごみ問題は、私たちの生活形態の再考を促しているともいえます。「面倒くさくて、タイパが悪い」、といったコメントが聞かれそうですが、どんなに面倒くさくとも、生活スタイルを考えつつ、どのようにして改めていくかが求められている局面にあると、筆者には思えてなりません。
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