はじめに
ハラの森に近頃、鳴き声の賑やかな鳥がやってきます。意外にも3メートルぐらいに近づいても逃げません。その鳥について紹介しつつ、前回クスノキを分類学的に詳述したように同様に紹介したいと思います。
ガビチョウという名の鳥
冒頭の掲載写真の鳥、この4月に頻繁にハラの森にやって来ています。鳴き声が賑やかなので、すぐに気がつきます。1羽で来ていることが多いのですが、先日は3羽ぐらいで来ていました。
人間に恐怖心が強くないのか、3〜5メートルの距離で出くわしても、慌てて逃げるような素振りさえ見せません。キジバトもやって来ていますが、ハラの森管理人・筆者の姿を目にするやいなや、地面の餌をつついていることを即座に止め、飛び去ってしまうことが多いのですが、この鳥は、筆者の姿を認めても枝に留まって鳴き続けます。
この鳥の名前をググってみました。お世話になったのは、公益財団法人日本野鳥の会が運営する「野鳥図鑑」です*1。容易にリストから見つけられました。特徴が強いのです。目の周囲を白の縁取があり、その一端が首にかけて延びています。
*1「野鳥図鑑」
名前は、和名「ガビチョウ」、学名:Garrulax canorus です。同サイトでは「スズメ目チメドリ科」と紹介しています。ガビチョウを分類して詳述すると、
動物界 Animalia > 脊索動物門 Chordata; 脊索動物亜門 Vertebrata > 鳥綱 Aves
> スズメ目 Passeriformes > チメドリ科 Sylviidae > ガビチョウ属 Garrulax > ガビチョウ Garrulax canorus *2
*2 ①「ガビチョウ」、 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ガビチョウ
②「侵入生物データベース」、国立研究開発法人 国立環境研究所
となる。が、科のあたりの分類には諸説あるようで異なる分類法も見受けられます。実際にウィキペディアと国立環境研究所との「科」の名称は異なっている。とにかくも要点は、学名で “Garrulax canorus” であるということ。そして、和名では「ガビチョウ」で通用している。ちなみに、「ガビ」は中国語の「画眉」から由来していて、中国では、ガビチョウの特徴である目の周りの縁取りが色を塗ったようであることを「画眉」と形容し、 “huà-méi” と言うのだそうだ。これに倣って英語名では “Hwamei” というのが、呼び名の一つになっている*3。
*3 前掲Web サイト Wikipedia
詳細な分類が解って何の役に立つのか? 日本語を解さない、異なる文化圏出身の人と話すときに「ガビチョウ」といっても理解してもらえない。 そんなときに、“Garrulax canorus” と学名を言うと、共通の理解の立脚点ができるので、そこから話者同士の自国では、「XXと呼ばれている」、「名前の由来は云々・・・」のような会話ができるはずだ。これが学問の効用の一つですかね、つまり万国共通であるということ、がです。まあ、学名まで記憶しておくということは、実際的ではあり得ませんが、紹介したい鳥が、外国語で何と呼ばれているのかを知る際に、学名は役に立つよ、ということを言いたいわけです。
野鳥図鑑の本には出ていない
実は、筆者が持つ野鳥に関する本に、このガビチョウは載っていませんでした。「野鳥図鑑の本には出ていない」ということは、どういうこと?と思いますよね。
その本には186種の陸鳥と水鳥と大まかに分けて紹介されていて、「・・・186種を知っていれば充分である。・・・186種をクリアすれば、もうベテランのバードウォッチャーといえるだろう」*4というくだりがあります。このガビチョウ、南関東の郊外の住宅もある場所で見かける鳥であるのに載っていないとは・・・、ということで筆者に浮上した考えは、生息域を広げてきた? 温暖化してるから? ということでした。
*4 志村英雄、山形則男、柚木修 共著 『野鳥ガイドブック』、1992年、永岡書店
ガビチョウは、「日本の侵略的外来種ワースト100定種」のリストの中に
先述したウィキペディアの「ガビチョウ」を参照して驚きました。何と「特定外来生物」で、「日本の侵略的外来種ワースト100定種」だというのです。
これも先に参照しました、国立研究開発法人・国立環境研究所が「侵入生物データベース」を掲載していまして、ガビチョウのリストが出てきます*5。
*5 国立研究開発法人・国立環境研究所が「侵入生物データベース」
このデータベースにある、ガビチョウの調書的項目をいくつか挙げてまとめてみます。
- 自然分布:中国南部、海南島、台湾、香港、ベトナム北部、ラオス北部
- 生息環境:丘陵地,平野部の低木林や藪。積雪量の多いところには分布しないのは、地上採食性で、渡りをしないことが原因と考えられる。
日本での侵入分布域:宮城、福島、千葉県を除く関東各都県、大阪、兵庫、鳥取、島根、山口、高知、鹿児島を除く九州各県 - 侵入経路:愛玩用・観賞用に輸入された飼い鳥が逃げ出す。あるいは飼い主によって放たれた結果、野生化したと考えられる。
- 侵入した時期:江戸時代から輸入の記録があるが、野外では1980年代に北九州で観察されたのが最初。関東では1990年に山梨で最初に観察された。
確かに、ガビチョウの生息域は広がった
先に言及した『野鳥ガイドブック』は1992年の発行ですから、山梨県で1990年に初めて観察されたということですから、南関東ではまだ目撃されることはなかったのでしょう。
ガビチョウをペットとして輸入したことで、渡りはしないのに彼らは生息域を広げる結果となりました。近年では、暖かい冬が傾向が続いているので、彼らは生息域を更に広げていけるでしょう。ガビチョウの生息域の拡大に大いに寄与しているのは、彼らを人間が輸入したということです。人間は、自ら以外の生物の自然的分布図を、人間の都合で変えてしまうのです。否、どうでしょう。動植物が放つ鑑賞に値する要素や愛玩的要素が、彼らの分布域の拡大に寄与するように、人間の行為を方向づけているという見方はできないでしょうか。
祈るのは、彼らが日本在来の鳥たちを駆逐しないように、日本の自然環境に調和的であってほしいということです。今回はこれぐらいにします。ごきげんよう。
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