はじめに
先週はネズミモチを紹介しました。記事の中で、「照葉樹の葉は見た感じの概観は似ている」と書きました。どうです、冒頭に掲げた写真。一見では、確かにネズミモチと見分けがつきにくいと思いませんか?といっても、ネズミモチを隣に掲載しないと比較になりませんね。下を御覧ください。 今回は一見似ている「この木」について調べてみます。
両者の比較
下に掲載した写真は、枝の一部を切り取って並べたものです。違いをどこに見い出せませすか?
ぱっと見た感じ、右上のネズミモチの方が葉が大きいのが判ります。そして、葉のふくらみが中央部で大きくなっていて、もう一方の、「この木」よりもふっくら感があります。
違いは、まず葉のつき方です。ネズミモチを識別する際の決定的なことに、「対生」であることでしたが、もう一方のそれは、「互生」となっています。葉の形状も異なってますね。この木の方は、「全縁」でなく、「鋸歯状」となっています。そして、枝については、ネズミモチは緑系の肌面で斑点がありますが、「この木」の方は、茶系で、写真では表現されていませんが、微細な毛が生えています。
「この木」を同定してみる
- 葉の形:不分裂葉
- 葉のつき方:互生
- 葉の縁の形状:鋸歯状
- 落葉樹/常緑樹:常緑樹
「この木」の同定は、少々難しかったです。葉の形状は「クロバイ」なる木と似ているように思いましたが、解説に「葉の形もモチノキににている」とあり、春先に花が咲くとのことなんですが、その覚えもなしということでクロバイ説は却下しました。クロと名前が入っているだけあって「葉の表面が黒っぽい」という解説も一致しませんでしたし。写真の小枝の葉は新緑の時期ということもありますが、緑鮮やかであるのが「この木」の特徴です。で、結局たどり着いた「この木」の結論は、「サザンカ」です。サザンカの要点を述べますと、
- サザンカ[山茶花]: Camellia sansanqua ツバキ科ツバキ属の小高木
- 樹高:3〜8m
- 分布:四国、九州などに自生
- 花の時期と特徴:10〜12月、白花で花びらは1枚ずつ散る*1
*1 林将之 『葉で見わける樹木』増補改訂版、 2010年、小学館
「花びらは1枚ずつ散る」。これがヤブツバキとサザンカを識別するポイントの一つなります。以下に載せたのがサザンカの花です。以前ツバキの記事のところで紹介した本をご一読いただくと「へ〜っ」的な感想も持てるかなと思いますが、ヤブツバキの花は、花びらが1枚ずつ“はらりはらり”と落ちるのではなく、花は根元の萼の所から全ての花びらがまとまって落ちるのです。“ぽとり”と落ちる感じです。サザンカはヤブツバキと同科同属ではありますが花びらは1枚ずつ散るのです。この花の解説がサザンカを同定する決め手となりました。
サザンカの白い花
ハラの森の生垣に在るサザンカは白い花です。ネットでサザンカを検索すると、真紅の色の花びらが多いタイプの写真がヒットすると思います。交配によって様々な園芸品種があるのが背景であるようです。山で見られるサザンカは「白の一重であっさり」としたタイプであるということです*2。ハラの森の花は野趣そのもので素朴なタイプであります。
*2 筑波実験植物園、植物図鑑
さいごに
サザンカの学名である Camellia sasanqua は、サザンカの和名の音をスペル化したのでしょう。サザンカは南西日本の固有種です。地球が温暖化して北上して来たのでしょうか? 人為的な結果として棲息域が広がったのかは判りません。とにもかくにも、こうしてハラの森に在って生垣を構成してくれることに感謝です。
以前、植木屋の職人から聞いたことで、さもありなん、と思ったことがあります。「日本固有種の木が強くていいよ」という趣旨のことを言っていました。最近では欧米由来の樹木に人気があったりするそうですが、枯れやすかったりするそうです。筆者が雑な剪定を行っても枯れずに存続し、生垣の一部を構成し風雨から家屋を守ってくれている。在来の固有種サザンカ、生垣に適していてありがたい存在です。ということで、今回はこれぐらいにして、ごきげんよう。
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