ハエはどこに行った?
先日、「雑草について考える−2」を書いていて、連鎖的に思い至ったことに、「最近、そういえばハエの数が減ったよな」ということでした。平成10年頃の夏などは、ハエ取り紙でも吊るしてやろうか、と思って、年によっては取り付けたことを記憶しています。
先日、中型ぐらいのオニヤンマが庭を飛んでいました。何気なく感じたことが、「トンボもハエが減って困ってんだろうなぁ」。解剖学者・養老孟司氏がYoutube【公式 養老孟司】の中で、「ハエの激減」に関する話は、度々なされるので、ハエのことに意識を向けていたのかもしれません。とにかく、実感として、ハエに悩まされた経験は、ここ10年以上ないかもしれない・・・と思います。子供の頃に見た、エメラルドグリーンのギンバエ、よく排泄物に群がっていたような・・・、いなくなりましたねぇ。
昆虫たちが置かれている現況
もしかして、除草剤の散布が関係あったりして、と思っているところで、サブスクしているWeb・The Guardian の記事を検索していたところ、以下の記事に出合いました。「昆虫たちの大惨事」とでも訳せましょうか。ギンバエの現象についての示唆もえられるかも、です。
昆虫の減少は、世界規模で起きております。この過去50年に75%数が減ったということです。先日のWeb-The Guardian に生物学者グゥールソン氏の記事「私たちの世界は、虫たちなくしては、衰退し死んでしまうだろう」(拙訳)が載っています*1。この記事は、2021年に出版されたグゥールソン氏の著書 Silent Earth *2の要点を抜き出して編集された形式となっています。
*1 The insect apocalypse: ‘Our world will grind to a halt without them’
by Dave Goulson
*2 Dave Goulson, Silent Earth —Averting the Insect Apocalypse, 2021, Vintage Publishing
グゥールソン氏は、自国の英国のみならず、世界中で昆虫の減少が起きていることを知って暗澹とした気持ちになっています。氏が著書を記したのは、関心が惹かれたミツバチ研究をしている中で、個体数の減少を知り、なぜその現象が起き、そして何ができるのか、と考えた上で採った行動であると言います。
読者の方は、ミツバチの数が減ったことの背景については、何らかの予想がつくのではないでしょうか。森林伐採などによる森林地、草地の減少、といったことを思いついてはいませんでしたか? 正解です。
氏は、著書名Silent Earth を出版したわけですが、これについても読者の方で気づいておられる方もいるでしょう、レイチェル・カーソンの Silent Spring (邦題:沈黙の春) に似ているな、と。その通りで、著書の中でカーソンのことに言及しながら、『沈黙の春』の出版1963年から環境が格段に破壊的になっていると言います。
氏によると、昆虫が豊かな野生の生息地は、干し草用の牧草地、沼や湿地帯、ヒース原野、そして熱帯雨林。それらが、ブルドーザーで整地されたり、焼かれたり、耕地化が、大規模に続いてしまっていること、カーソンが問題とした、農薬と肥料の問題、格段と激しくなり、毎年300万トンの殺虫剤が地球環境に散布されている、新種の殺虫剤は、カーソンの時代の殺虫剤の何千倍も毒性が強いこと、土が劣化し、河川はシルトで堆積し埋まり、化学物質で汚染されている。しかも、彼女の時代には、見られていなかった現象、気候変動が、現在では猛威を振るう・・・
「毎年300万トン」、1963年の「何千倍も毒性が強い」つまり殺虫能力が高い・・・。常軌を逸してしまった感がありますが、こうした行き過ぎた面を人間がもっているということです。
とにもかくにも、人間は、虫が住みにくい環境を形成し続けている、というのが実情であるようです。結果、どうなるかといえば、グゥールソン氏によれば、人間が快適に安心して暮らす環境を自ら損なっているということです。農作物の受粉を行ってくれるのが昆虫ですし、糞や動物の死骸を分解してくれるのも昆虫です。鳥や魚、カエルは昆虫を餌とするのでありますし、野生の花も受粉を昆虫に頼っている、これらのことは、昆虫の数が減るにつれて、人間が得られる自然の恵みが少なくなっていくということになります。食糧的な側面のみならず、鳥のさえずりも聞ける機会が減っていき、釣りに出かけても魚影を見るのが難しくなり、野には花の彩がなくなって、やがては私たちが見る風景は生命感を失っていくことになるわけです。
処方箋
この現状を理解した上で、私たちはどのように対応していけばいいのでしょうか?
答えは難しくはありません。虫が住みやすい環境を作っていく。これだけです。そのためには、除草剤、農薬を散布しない。そして、経済観点からの土地の有効利用を求めて開発をするのではなく、虫が好む生息地、湿地帯や原野を残し守っていく。答えは読者の方も思いついたと思います。
今回は、除草剤と農薬の話に限って述べてみます。
除草剤や農薬については、近隣に草木が茂っていても除草剤を使わず、草刈り、剪定といった、人力による手入れをする。「それができねぇから、時間と金を掛けれねぇから、除草剤を使ってんだよっ!」と言われそうですが、”できない” ことについて近隣の人たちと話し合って知恵を出すことです。「何いってんだぁ」と言われるでしょうが、昨今叫ばれている、”共同体の崩壊”ということの解決法、難解な言葉を使わなくとも、「ご近所さんとのつきあい」は、こうしたことに取り組むことからしか生まれないように思います。面倒くさいけれども、これをやっておくだけで、やがてくるであろう地震の時に役立つはずです・・・、と考えますが、皆様はどう思いますか?
次に、市民の方が、「近隣に田畑があるから、虫が家の中に入ってきて困る」、といったことを言ってしまうと、農家の人は、その苦情に困ってしまい、除草剤を撒くということになります。
また、農作物について、例えば、購入したキャベツに関して、「虫が食っている」、「虫が出てきた」と苦情がでると、やはり農家の方は農薬を撒くことになってしまうでしょう。結果、生物が生きにくい環境をつくりだしてしまうことに加担することになってしまいます。確かに、蚊は疎ましい存在ではありますが、彼らが存在しないと、トンボやコウモリが困ってしまいます。お互い頑張って生きる存在として、当然の存在として認める姿勢を身につけるしかありません。
本稿のまとめ
管理人・筆者が、ハエを最近目にすることが減ったことに気づいたことを契機として、英国の生物学者・グゥールソン氏が主張する、ミツバチの減少、昆虫全般にわたる個体数減少は、昆虫の生息地を人間が開発していること、そして年に300万㌧にも及ぶ農薬使用量、しかもその殺虫能力が高まっている、ことが理由としてある、ということを紹介しました。氏は、虫が減少し続ければ、他の生物、鳥や魚も減少し、花も受粉できず果実をつけることもなくなる、やがては地球上の生命感が減衰していくことを警告しています。
こうしたことを受けて、管理人・筆者が処方箋として述べたいのは、虫についての苦情を言うのではなく、市民の一人ひとりの考え方、「薬で草や昆虫を殺してしまえばいい」、これを改めることなくして、住みよい環境をもつことは不可能である、ということです。
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